2025年11月8日(金)現在、前日6日(米国時間)の米国株式市場で主要指数が大幅に下落し、投資家の間で雇用市場の冷え込みへの懸念が広がっています。本記事では、人員削減の急増が引き起こした市場の動揺と、各市場セクターへの影響をわかりやすく解説します。
米再就職支援会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが発表した調査によると、企業が10月に発表した人員削減数は同月として過去20年余りで最多を記録しました。この報告を受けて、11月6日の米国株式市場ではナスダック100指数が前日比489.99ポイント安(−1.91%)の25,130.04ポイントで取引を終え、ハイテク株を中心に大きな売り圧力がかかりました。投資家心理の悪化により、恐怖指数として知られるVIXは一時20まで上昇し、市場の警戒感が高まっています。
10月の人員削減が20年超で最多──労働市場の急速な冷え込み
チャレンジャー社の調査によると、10月の人員削減数は前年同月比で2.8倍に増加しました。この大幅な増加は、AI技術の進展による業務効率化や企業のコスト削減圧力、さらには高金利環境の長期化による企業収益への影響が背景にあると考えられています。特にテクノロジー企業や金融セクターでの人員整理が目立ち、雇用市場全体の減速懸念が再び強まりました。
労働市場の冷え込みは、消費者支出の減少や景気後退リスクの高まりにつながる可能性があります。これまで堅調とされてきた米国経済の成長エンジンである個人消費が、雇用不安により鈍化する懸念が市場関係者の間で広がっています。
ハイテク株のバリュエーション懸念と調整圧力
ナスダック100の急落の背景には、人員削減のニュースに加えて、ハイテク株の高過ぎるバリュエーションへの警戒感があります。AI関連株を中心に株価が大きく上昇してきた反動として、限られた銘柄だけが相場上昇をけん引していることへの不安が顕在化しました。
サスケハナ・インターナショナル・グループのクリス・マーフィー氏は、今回の下落について「市場のフロス(泡)をある程度取り除く動き」と指摘しています。堅調な決算発表が続く一方で、株価の急激な上昇に対する調整の必要性が意識され始めているのです。テクニカル分析の指標も慎重姿勢を促すシグナルを発信しており、短期的には調整局面が続く可能性が示唆されています。
政府機関閉鎖が経済の不透明感を増幅
投資家心理を一層悪化させているのが、10月初旬から続く米連邦政府の一部閉鎖です。この影響で雇用統計をはじめとする主要な経済指標の公表が停止されており、市場参加者は限られた民間データに基づいて経済の実態を推測せざるを得ない状況に置かれています。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメントのポートフォリオマネジャー、エド・アルフセイニ氏は「民間部門の雇用を示すさまざまな指標が黄色や赤色の信号を発しているが、雇用の減少が失業率を押し上げるかどうかは、今のところはっきりしない」と述べています。政府閉鎖による情報不足が、市場の不透明感をさらに高めている構図です。
主要指数そろって大幅反落──個別銘柄にも調整の波
株式市場の動向
11月6日の米国株式市場では、ダウ工業株30種平均が398ドル安、S&P500指数も大幅に下落し、主要3指数がそろって反落しました。ナスダック100では構成銘柄の8割以上がマイナス圏で取引を終え、特にAI・半導体・クラウド関連の下落が目立ちました。個別銘柄では、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が前日比−7.27%、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)が−6.84%と大幅に下落しています。一方、アストラゼネカ、マーベル・テクノロジー、マイクロン・テクノロジーなど一部銘柄は上昇し、銘柄選別の動きも見られました。
為替市場の動向
為替市場ではドル円相場が一時152円83銭まで円高・ドル安が進行しました。米国債利回りの低下を背景に円買い・ドル売りが優勢となり、リスク回避の動きが強まりました。ブルームバーグのドル指数も続落し、雇用市場の急速な冷え込みを示す民間データがドル売り圧力となりました。ドル円は153円台後半で推移しており、日米金利差の動向とともに、今後の米雇用統計や日銀の金融政策判断が為替相場の方向性を左右する見通しです。
債券・金利の変化
米国債市場では、雇用市場の冷え込み懸念を受けて利回りが低下しました。10年物国債利回りは4.151%まで下落し、投資家がリスク資産から安全資産へシフトする動きが見られました。FRBの利下げ継続観測が強まったことも、債券価格の上昇(利回りの低下)につながっています。市場では12月のFOMCでの追加利下げの確率が高まっており、金利の先高観が後退しつつあります。
原油・金などコモディティの反応
原油市場ではWTI原油先物が59.63ドルと小幅反発しましたが、在庫増加により上値は重い状況です。景気回復期待が下支え要因となっている一方、雇用市場の冷え込みによる需要減退懸念が価格を抑制しています。金価格は3,983.55ドルまで小幅下落しましたが、地政学リスクや経済不安から安全資産としての需要は根強く、高値圏での推移が続いています。
暗号資産市場の値動き
ビットコインは103,452.11ドルで−0.40%と小幅下落しました。株式市場の調整がリスク資産全般に波及した形ですが、下落幅は限定的でした。FRBの利下げ継続観測が暗号資産市場にとっては追い風となる一方、規制強化への懸念や市場全体のリスク回避姿勢が上値を抑えています。イーサリアムなど主要アルトコインも同様に軟調な展開となっていますが、出来高は低水準にとどまり、様子見ムードが強い状況です。
今後の焦点は雇用統計と経済指標の正常化
今後の市場の焦点は、政府機関の閉鎖解消と公式経済指標の公表再開に移ります。特に雇用統計や消費者物価指数(CPI)など主要な経済指標が正常に発表されることで、投資家は経済の実態をより正確に把握できるようになります。
また、12月9日から10日に開催されるFOMCでの政策判断も重要な注目ポイントです。労働市場の冷え込みが確認される中、FRBがどの程度積極的に利下げを進めるかが、株式市場や為替市場の方向性を大きく左右します。投資家は、雇用関連の経済指標とFRB高官の発言に引き続き注意を払う必要があります。ハイテク株のバリュエーション調整が一巡すれば、好決算を発表している優良銘柄への物色が再開する可能性もあり、銘柄選別の重要性が高まっています。
ミニ用語解説
ナスダック100指数:ナスダック市場に上場する金融銘柄を除く時価総額上位100銘柄で構成される株価指数。アップル、マイクロソフト、エヌビディアなどハイテク・グロース株が中心で、米国のテクノロジーセクターの動向を示す代表的な指標です。
VIX指数(恐怖指数):シカゴ・オプション取引所が算出する、S&P500のオプション取引から導かれる将来の変動性(ボラティリティ)を示す指数。数値が高いほど市場参加者が将来の株価変動を大きく見込んでおり、投資家の不安心理が高いことを示します。
バリュエーション:株式の評価や適正価格を示す概念。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの指標で測られ、高過ぎるバリュエーションは株価が割高であることを意味し、調整リスクが高まります。
参考・出典
※本記事は情報提供を目的としており、特定の投資行動を推奨するものではありません。
価格や指標は2025年11月8日(金)時点の情報に基づいています。
